厨房コラム  厨房や料理に関するちょっとした話題をご紹介します。 |第1回第2回

第1回    江戸の“くりや”と“くりやびと”

先日、浦和の調神社(つきのみや神社) の骨董市に出かけ、江戸時代の厨房を描いた版画を入手しました。
因みに、江戸時代の厨房を厨(くりや)といい、料理人を厨人(くりやびと)と言います。

絵の右手、竹の簀(すのこ)になっているところは、下処理や下拵えのエリア。 左は、今でいう板前さんの切る作業のエリア。更に左に目を移すと、食器が収めてある様子がうかがえます。この絵には描かれていませんが、本来は、その脇に盛付棚や台があり、そこで盛り付けをしているのでしょう。 後ろ面は、かまどで煮炊きをするエリアです。火を使うことから、防災、環境に配慮して、少し離れた壁の面に配置しているのですね。

そんな江戸時代の厨のレイアウトを頭に入れてから、改めてこの版画を紐解いてみることとしましょう。下処理のエリアの竹の簀の上で、早朝、日の出前に水桶に汲んだ水を手桶に分け、その横では魚のウロコを取っている人がいます。また、水を張った桶に塩を入れて蛸を洗い、ヌメリを取っている姿もあります。後ろでは、座って魚のすり身をすり鉢で作っている人も見えますね。

左手前の厨人は、庖丁を研ぎに余念がなく、中央の武士が庖丁と真魚箸(まなばし)を使用しながら鯛を切り身にしています。後ろの女性は、恐らく庖丁人の奥さんで、亭主の見立てた道具を拭きつつ、会席膳の用意をしているところだと思われます。

ちょっと注目してほしいのが、この亭主の服装です。庖丁を握る作業が如何に特殊で周りと一線を引いたかが伺える資料です。厨人としては最高位が庖丁人になるのですね。諸大名自ら庖丁を握っていた記録は多く、ここの亭主もそうした大名の一人なのだと思われます。縁台の横で餌を待つ犬も可愛いものですが、この絵はきっと猫でしょう(笑)。

骨董市で手に入れた1枚の版画から、遠く江戸の昔の厨房に思いを馳せたひとときでした。
次回の骨董市も楽しみです。

文:西 耕平(ニチワ電機・営業本部長兼コンサルタント部長)